「やっぱり14Cっていいですよね。ペン先がなんとなく柔らかい感じで……」
“そう! そうなんですよ!”
僕は嬉しくなった。
「これください。お願いします」
僕は買うことを決めた。
冒頭からスイマセン。
“14C”っていわれても何のことかわからないですよね。
マニアックすぎました……。
僕は、自称文具マニアで、特に筆記具には目がありません。
筆記具といっても、特に万年筆にハマっておりまして……。
“万年筆”というと、ペリカンやウォーターマン、クロスやシェーファーなどの海外メーカーが有名ですが、国産でもセーラーやパイロット、プラチナなどのメーカーも有名です。
最近は普段使いの万年筆も発売されるようになって、若い人の中にも万年筆を使う人が増えているようです(個人的には嬉しい限り)。
仕事でもラミーなどを普段使いしている人がいて、思わず直視してしまいます……(当然、変な顔をされますが……)。
先ほどの“14C”とは、モンブランの万年筆のことです。
モンブランというドイツのメーカーが作っている万年筆で、“149”という品番の万年筆。
14Cとはペン先の素材を表していて、14金のこと。ペン先に彫られています。
他にも、14Kとか18Cとか。
年代で異なるのですが、僕が好きなのは70年代につくられた14C。
70年代の製造なので、新品では手に入りません。
中古でしか流通していないので、置いてあるお店も少ないのです。
たまに訪れるのが、東京の新宿にあるお店。
新品も中古品も置いてある筆記具専門店。
ネットで入荷状況を確認し、店舗で実物を確認することにしています。
そしてようやく冒頭の話。
ネットにお目当ての14Cがあったので、店舗に足を運びました。
壁一面がショーケースになっているそのお店は、マニアでなくともワクワクする店づくり。
お目当ての14Cはすぐに見つかりましたが、いろいろ目移りして、店内をウロウロしていました。
「試し書きされますか?」
「あ、はい。ぜひ」
“待ってました”とばかりに、お目当て以外にも数本ショーケースから出していただき、試し書きをしてみることに。
僕に声をかけてくれた店員さんは、黙々とペン先にインクを注入し、僕の前に並べてくれています。
僕も黙々と試し書きをしていると、他の接客が終わった別の店員さんが話しかけてくれました。
「やっぱり14Cっていいですよね。ペン先がなんとなく柔らかい感じで……」
“そう! そうなんですよ!”
僕は嬉しくなり、話しかけてくれた店員さんに笑顔でうなずきました。
「これください。お願いします」
僕は話しかけてくれた店員さんに向かって、そう言いました。
僕の長い長いマニアック話につきあっていただきありがとうございます。
今日の本題はここからです。
買い物って、やっぱり楽しいものだと思います。
自分が求めている商品やサービスを手に入れることができるとウキウキします。
生鮮品や日用品のようにセルフで買うことの多い商品もたくさんありますが、相手を介在して買う商品は、また違う感覚があると思っています。
自分が欲しいと思っていた商品はあったのだけれど、接客してくれた人がちょっと雑だった。
欲しいものは手に入れられたけど、ちょっとだけモヤモヤした。
どれにしようか迷っていたら、店員さんがひたすら話を聞いてくれた。
勢いで決めたけど、店員さんが「僕もそれが一番いいと思います」と言ってくれた。
サービストークかもしれないけど、ちょっと嬉しかった。
これは何も、一般消費財だけに限らないと思います。
BtoBのビジネスでも、モヤモヤすることもあれば、嬉しくなることもあると思います。
僕は長らく、いわゆるコンサルティングの仕事をしています。
独立してからは、コンサルティングを受けることも増えました。
コンサルティングを受けるようになって気づいたこともたくさんあります。
どうすればいいか悩んでいると、「こうすればいいんですよ」とアドバイスいただくことがありました。
確かにそのとおりなのかもしれませんが、ちょっとモヤっとする気持ちもありました。
なぜモヤっとしたのかはわかりませんが、とりあえずそのアドバイスに従うことにしました。
どうすればいいかわからずにいると、「難しいですよね~」と声をかけていただくことがありました。
「やっぱり難しいですか?」と聞くと、「はい。でも一緒に考えましょう」と言ってくれました。
なんだかちょっと気がラクになって、“がんばってもっともっと考えよう”という気持ちになりました。
そんな経験もあって、僕は“コンサルティング”という言葉をあまり使わないようにしています。
“コンサルティング”という言葉の定義は“問題解決”だと聞いたことがあります。
確かに相手は困っている。
問題の解決を求めている。
“こうすればいいんですよ”と提案して、問題が解決する。相手も満足する。そういうこともあります。
“こうすればいいんですよ”と提案しても、問題は解決するかもしれないけど、言われた相手はちょっとモヤっとする。そういうこともあります。
ずいぶん前から、“コーチング”や“カウンセリング”という言葉を耳にするようになりました。
“コーチング”という言葉の定義は“相手の中にある解を引き出すこと”だと聞いたことがあります。
“カウンセリング”という言葉の定義は“相手の話をひたすら聞くこと”だと聞いたことがあります。
いろいろなコンサルティングを受けてきて気が付いたことは、僕にとって安心できるのは、“コンサルティング”と“コーチング”と“カウンセリング”を上手に使い分けてくれる人なんだ、ということです。
時に向き合って、“こうすればいいですよ”とアドバイスをくれる。
時に寄り添って、ひたすら話を聞いてくれる。
時に向き合いつつ、寄り添いつつ、“一緒に考えましょう”と言ってくれる。
“いい商品を手に入れることができた”
相手にそう思ってもらえれば、“顧客満足”になっているのだと思います。
“この人に担当してもらってよかった”
相手にそう思ってもらっても、“顧客満足”になっているのだと思います。
生鮮品や日用品のようにセルフで買うことの多い商品なら“いい商品を手に入れることができた”となるでしょうが、相手を介在して買う商品は、“この人に担当してもらってよかった”となるのでしょう。
そういえば最近、“共感力”という言葉を耳にするようになりました。
特に耳にするようになったのは、SNSが世の中に登場してからでしょうか。
いわゆる“いいね”ってやつでしょうか。
「それ、いいですね」
「私もそう思います」
「僕の感覚と一緒です」
自分が手に入れることができて喜ぶだけでなく、それを相手に共感してもらえると嬉しいと感じるのかもしれません。
「やっぱり14Cっていいですよね。ペン先がなんとなく柔らかい感じで……」
この共感があったから、僕は嬉しくなったのだと思います。
そもそも買うつもりでしたが、自己満足で喜ぶだけでなく、共感してもらったことで嬉しいと感じたのだと思います。
『相手に喜んでもらう』
これが顧客満足の定義だと思います。
『相手が嬉しいと感じてもらう』
これも顧客満足の定義だと思います。
僕は、お客様に“嬉しいと感じてもらう”ことを大事にしたいと考えています。
蛇足ですが……。
僕は“コンサルティング”という言葉をあまり使わないようにしています。
適切な言葉が見つからないので、“助言”とか“支援”とか“伴走”という言葉を使うようにしています。
問題解決だけでなく、相手の話をひたすら聞いたり、相手の中にある解を引き出すように一緒に考えたりと、僕なりに心がけているからです。