組織づくりが上手なトップの5つの共通点

「この子たち、社長が目の前にいるのにガンガン文句言ってますが大丈夫なんですか?」
「あ、いつもこんな感じ(笑)。僕(社長)だけじゃなく、専務にも常務にも言ってるし(笑)」

それは、とある会社から依頼のあった研修後の懇親会でのこと。
半日コースの先輩社員研修が終わり、参加者みんなで近くの居酒屋で飲んでいました。
スタートから1時間ほどが経ち「お金を払いに来ましたー」とトップが登場。
“お金を払いに”は口実で、今日の参加者、若手社員たちと飲みたかったようです。

トップが来るまでは、あれやこれやと講師の僕が質問攻めにあっていましたが、トップの登場とともに彼らの矛先がイッキにトップに向き始め……。

「社長、いいかげんその靴買い替えなきゃだめ。仮にも会社の代表なんだから、もっとキレイな靴はいてもらわないと。××さん(取引先)に一緒に同行してもらう身にもなってくださいよ。××さん、そういうと見てるっスよ」

「社長、△△さん(顧客名)が“最近社長の顔見てない”って怒ってましたよ。ゴルフ行く暇あったら、お客さんに顔出してくださいよ。ったく釣った魚に餌やらないんだから……」

「社長、▼▼(取引先)から“請求書届くの遅くない?”って言われたんスけど。もっと早く出せないんですか?」

側で見てる僕には、トップが若手社員に吊るし上げられているようにしか見えないんですが、当の本人(トップ)は、「そっか~。そうだよな~。ゴメンゴメン……」と笑顔で反応。

いつの間にかスタートから3時間。
また明日も仕事だからと、21時過ぎに懇親会はお開きになりました……。

そのあと僕とトップの2人は2軒目に。

「ずいぶん若手が文句言ってましたが、大丈夫ですか?」
「大丈夫って、何がですか?」
「いや、モチベーションが下がってたりするのかな、と……」
「そう見えました?」
「いや、社員も××さん(トップ)も笑いながら言ってましたので、そんなことはなさそうな……」
「文句だったら、言いたいだけ言わせればいいんですよ。愚痴じゃないんだし」
「文句と愚痴は違うんですか?」
「愚痴って、現状否定だと思うんですよ。“会社はダメだ、上司がダメだ”って。ネガティブな感情を吐き出すだけ、そこから先がない。
でも文句って、改善提案だと思ってるんです。“あれがダメだ、だからこうしてくれ。これが良くない、だからこうした方がいい”ってね。一見するとネガティブな感情を吐き出しているように見えて、“だからこう変えて欲しいんだ”っていう意志がある。前向きじゃないですか」
「あ~、確かに確かに」
「それに、愚痴って本人の前では言わないでしょ? 文句って本人が目の前にいないと言えない」
「だから“金払いに来た”って言いながら、わざわざ来たんですか?」
「あいつら(若手社員)は、わかってると思いますけどね……」

仕事柄、日々多くのトップ、オーナー、経営者の方々と接します。
ホント、学びの多い仕事だと思います。
研修で社員に学びや気づきを提供しながら、僕がトップから学びや気づきを得てる。
ホント、有難い商売をさせてもらっていると思います。

これまでたくさんのトップ、オーナーの方がと関わらせていただきました。
学びや気づきだけをいただいても申し訳ないので、“うまいなぁ~”と思うトップの共通点を5つにルール化してみました。

1.「これからこうするよ」を多用
2.兆しを見つけるのが上手
3.役割を与える
4.社員の成長に期待
5.社員の想像力の欠如を指摘

説明がないとわかりにくいかもしれません。
ひとつずつ補足を。

共通点1
「会社はこれからこうなっていくから。だからついてきて」
「会社をこれからこうするよ。だから一緒に頑張ろう」
組織を牽引するリーダーが発する言葉としては、よくあるメッセージだと思います。
どちらも力強いメッセージだと思います。
僕としては後者の方が好きなんです。
“ついてこい”という言葉は頼もしいですが、“一緒にがんばろう”という言葉は期待されている感じがします。
社員は期待されると、期待に応えようとします。
社員に自主性を促し、積極性を促す。
“うまいなぁ……”と思います。

共通点2
トップやオーナーの方は、問題を見つけるのが上手な方が多いように思います。
優秀なビジネスパーソンは問題解決能力をお持ちの方が多いように思いますが、“問題を見つける”という点では心許ない人も多いように思います。
問題は解決することより、見つけることの方が重要ですから。
ただ、“問題”とは“顕在化している事象”とも言えます。
“解決しなければならない状態までこじれてしまった事象”とも言えます。
こじれる前に対処することが、本当は大切なのではないでしょうか?

ちょっと話は飛びますが、僕はここ20年ぐらい、風邪を引いたことがありません。
風邪を引く前に風邪薬を飲んでしまうので、風邪になったことがありません。
“あれ? ちょっと喉がイガイガするな”
“あれ? 唇が妙に乾いてきてるぞ”
“目が乾燥しすぎて、ちょっとアタマが痛いかも”
こんな兆しが出てきたら、すぐにクスリを飲んでしまいます。
数時間後にはスキッとしています。
こじれる前に対処する。これが体調管理のキホンだからです。

トップ、オーナーの中には、組織内の“兆しを見つけるのが上手”な方がいます。
“あれ? 週報の文章がいつもより短い(雑だ)な”
“あれ? ここ最近は身だしなみ(髪型)を気にしてない感じだな”
“こちらから挨拶しても、視線を合わせようとしないな”
取引先と何かあったのか、チームメンバーと何かあったのか、何か後ろめたいことでもあるのか……。
気になったら、すぐに社員のところに出向いて(または呼び出して)対話する。
取引先から無理な値引き交渉があったり、チームメンバーから嫌がらせを受けていたり、転職活動を始めていたり……。
顕在化してしまってからでは遅い場合があります。
問題を解決できたとしても、元には戻らないこともあります。

兆しを見つけて対処する。
“うまいなぁ……”と思います。

共通点3
『適材適所』という言葉があります。
企業は、さまざまな人事制度を活用して、然るべき人を然るべきポジションに置いて、組織を、業績を伸ばそうと苦心します。
人事制度の中でも、等級制度や評価制度は多くの企業で活用されていると思います。
とはいえ、常に悩みを抱えている企業は少なくないように思います。
特に悩むのが“昇格”ではないかと思います。
活躍している社員に、どんな役職を付与するか、どこまでの役職を付与するか?
仮に役職を付与しても、力を発揮できない場合もあれば、甘んじてしまう場合もあります。
会社で働く人たちは、往々にして、“役職とは立場である”と思っている節があります。
偉くなった気分にもなるし、その重責に押しつぶされてしまう人も。
役職という立場を与えるのは、組織運営の中ではなかなか難しいものです。

トップ、オーナーの中には、“役割”を与えるのが上手な方がいます。
“役割”とは、“ミッション”と言えるかもしれません。
組織図上の人員配置ではなく、プロジェクトや案件ベースでの人員配置。
“このプロジェクト、とにかく関係者の説得に徹する。それが今回の役割。頼むよ!”
“今回の案件は、まだまだ青写真が描けてない。どうか道筋をつけてくれ”
“ムードメーカーに徹してくれ。前向きな空気感が必要だ。ピエロになってくれ”
社内イベントでも同様。
その人に明確な役割、ミッションを与える。
与えられた方は、その期待に応えようとする。
トップ、オーナー直々に役割を与えられたら、期待されたら、社員は……。
“うまいなぁ……”と思います。

共通点4
企業は営利法人です。
収益を上げなければなりません。
故に、組織もいかに収益を上げるか。
いかに効率的に収益を上げるか。
いかに生産性を上げるか。
これが大事になってきます。
だからこそ、社員の成果が大事になります。だからこそ、社員の成果に期待をかけます。
一方、“成果も大事なんだけどね”というトップ、オーナーの方がいます。
「成果を期待すると、成果に期待しすぎると、組織はおかしくなっちゃうよね。
まずは社員の成長に期待した方がいいんじゃない? 
社員が成長すればするほど、その先の成果も大きくなるんじゃないの?」
成果を期待されている会社の社員と、成長を期待されている会社の社員。
“うまいなぁ……”と思います。

共通点5
仕事をしていれば、クレームはつきものです。
お客様や取引先からのお叱りを受けることは誰だってあります。
仕事をしていれば、ミスはつきものです。
同僚や上司から叱られることは誰だってあります。

クレームやミスがあった時、僕の経験上、「なぜできなかったの?」とスキルや能力を指摘する企業が圧倒的に多かったように思います。
できなかったことができるようになるために、スキルの欠如を補うために、研修やトレーニングがあります。
僕のような人間もたびたび呼ばれます。

そんな僕の常識を覆したトップ、オーナーの方がいました。何人かいらっしゃいました。

とある企業で、お客様からのクレームがあった時のことです。
その企業のトップは、クレームを受けた社員にこう言いました。
「そっか、お客さんからクレームがあったんだ。それはまぁ、仕方ないね。
でもお客さんからクレームがあったってことは、お客さんの期待に応えられなかったんだね。
なぜお客さんの期待に応えられなかったんだと思う?」
社員は絶句していました。
てっきりトップに叱られると思っていたのでしょう。
「他の人間が何を言ったのかは知らんが、足りないのは想像力や。
お客さんのしぐさや行動から、お客さんが何を思っているのか想像する力がたりなかったんやな。
スキル不足なんて二の次。
もっとお客さんのことを想像する。想像力をふくらます。
もちろんスキルもないとあかんで」

フツーなら、“コミュニケーションスキルが……”と言いたくなるところです。
“想像力の欠如かぁ……”
“うまいなぁ……”と思います。

長くなりました。
最後にもう一度まとめて、このコラムを締めたいと思います。

「これからこうなる」より「これからこうする」
“問題を見つける”より“兆しを見つける”
“立場”の付与より“役割”の付与
“社員の成果”よりも“社員の成長”に期待
“スキルの欠如”より“想像力の欠如”を指摘

一緒にチャレンジしましょう。

目次