顧客満足とは、”購入動機の評価”で決まる

「社長、何か質問があればお伺いしますが……」
「あ、はい。大丈夫です。商品の内容は理解しました」
「それで……」
「とりあえず大丈夫です」
「あ、あの……」
「あ、そうですよね。はい、今日は契約しません。ありがとうございます」
「あ、そうですか、承知しました。もしお決まりの際はご連絡ください」
「はい、もちろんです。タイミングが来たら、ご連絡します」

とある銀行の担当者にご紹介された方から、保険商品の説明をいただきました。
僕が“法人としての保険にちょっと興味があって”と伝えたことでご紹介いただきました。

商品の内容は理解できました。
でも、契約はしませんでした。
“タイミングが今ではない”ということも理由のひとつですが、“営業トークが僕にしっくりこなかった”ということも大きな理由でした。

商品の説明は理解できました。
費用対効果もありそうです。
一般的な営業トークとしては的確だったと思います。

でも、やっぱり僕にはしっくりこなかったか。
結論から言うと、“メリット・ベネフィットの提示がなかったから“だったんだと思います。

「保険料はこのぐらいですよ(この額なら損金算入できますよ)」
“それはそうなんですが(損金算入はひとつのメリットですが)……”
「入院で×万円、通院で×万円の給付がありますよ」
“それはそうなんですが(給付もひとつのメリットですが)……”

保険に限らず、これまで、たくさんの営業をされてきました。
個人としても法人としても、たくさんの営業をされてきました。
前々から感じていることではあるのですが、“機能・性能”の説明が上手な人が多いな、と。
前々から感じていることではあるのですが、“購入メリット”の提案をする方は少ないな、と。

“購入メリット”というと言葉が難しいかもしれません。
言い方を変えれば、“用途に応じた提案をしてくれるか”ということかもしれません。

ずいぶん昔の話です。
出張用のキャリーバッグを買いに行った時のことです。
当時、月の半分は大阪に出張をしていて、1泊2日のことも多かったんです。

ふと入ったカバン屋さんにはたくさんのキャリーバッグが置いてありました。
(商店街にあるような街のカバン屋さんです)
容量別(30Lとか100Lとか)
素材別(ハードケースとかソフトケースとか)
形態別(縦型とか横型とか)
機能別(パソコン収納機能とか小物収納機能とか)
もちろん用途別(1泊用とか4泊用とか(容量別にこういう表示もありますが)に商品を並べている売場もありました。

自分なりに“これとこれかな”と目星をつけていたころに、店員さんに声をかけられました。
月の半分は大阪に出張していること、1泊2日の出張も多いことなどを伝えると、僕が目星をつけたキャリーバッグに説明を付け加えてくれました。

「これは車輪が4つなので運びやすいです。しかも、これらの中で一番安いのでお買い得です。ただ、車輪が固いというかクッションが固いというか。アスファルトの上だとゴロゴロという音が大きいかもです。“なんだ、ゴロゴロうるさいな”って周りの人に白い目で見られるかもしれませんね」
「これはソフトケースですが頑丈です。仕切りもたくさんあるので、パソコンや書類がスムーズに整理できます。車輪は2輪ですが、柔らかいのでアスファルトでもゴロゴロしません。ただ、これらの中では一番高額になりますね」
「これはソフトケースで仕切りもそれほどありません。ボストンバッグに車輪が2つくっついたような見た目ですが、入れる量によってバッグの大きさが変わります。飛行機の機内に持ち込めるのはもちろんですが、1泊程度の量であれば大きさもかさばらず、上の棚も圧迫しませんね」

“そっかぁ……。そうだよなぁ……”
結果的に3番目に説明を付け加えてくれたキャリーバッグを購入しました。
僕は、月の半分の出張を飛行機で移動することが多かったんです。
“機内に持ち込めるキャリーバッグがいいな”と思っていましたが、“上の棚を圧迫するようなゴツイ、大きなバッグはちょっとな……”とも思っていたからです。

飛行機の機内持ち込みも、座席数によって大きさに制限がありますが、どの機種でもクリア。
新幹線でも、足元に置いても座るときの邪魔にならない(同じ列の方の邪魔にもならず)。
今でも使っています。

「10年以上も? なんでそんな古いの使ってんですか……」
「機内持ち込みできるし、それにちょっとのスペースだけで済むし(他の乗客の人の荷物を圧迫しないし)、新幹線でも足元に置けるからすぐにパソコン取り出せるし、車輪も柔らかいからアスファルトでもゴロゴロうるさくないし。個人的にはデザイン的に“いかにもキャリーバッグです”という感じじゃないのも気に入っているし。もうこういうタイプ、売ってないんですよね」
「へぇ~、そうなんですか。いいですねぇ」

僕の用途を汲んで(“汲んで”というよりもいろいろな用途を想定して)説明してくれたカバン屋さんの店員さんには今でも感謝しています。

今はネットで何でも買える時代。
“ラクに買い物ができる時代”という人もいます。
でも、自分の用途に合うかどうか、確認するのはなかなか難しいように思います。
だって、ECサイトに載ってる情報は、商品の説明ばかり。要は“性能・機能”がメインですから。
いつも使っている商品や、何度も買っている商品なら、あまり考えなくてもいいでしょう。
“安いから”とか、“翌日発送だから”とか。

でも嗜好品とか初めて買う商品って、なかなか自分で説明できないことも多いかも。
「なんでそれにしたの(なんでそれを買ったの)?」
“安かったから?”
“気に入ったから?”
“ブランド品(有名)だから?”
「へぇ~そうなんだ。よかったね~」
ともすると、リアクションが薄い場合も。
薄いリアクションだと、ちょっと自分もモヤモヤするかもしれません。

消費財だけの話だけじゃないと思います。
上司に決裁を得ようとするとき。
会社で稟議を上げようとするとき。
説明を求められることも少なくないと思います。
「へぇ~、そりゃいいね。そこにしよう、それにしよう」
こう言ってもらえるのがいいと思います。
(相見積もりが必須で、“安けりゃいい”という考え方の会社は別だと思いますが)

自社の商品やサービス内容に精通し、的確な商品説明(性能・機能の説明)ができる人はたくさんいるように思います。
でも、相手のメリット・ベネフィットを(汲んで)提案できる人はたくさんいるでしょうか?
それこそ、『ヒューマンスキル』なんだと思います

人は、言い訳を求める生き物だと思っています。
「なんでそれにしたの(するの)?」
自分が納得できる言い訳(購入動機)が必要です。
自分で考えられる人もいますが、新たな気づきを提示されると、嬉しいものです。

「なんでそれにしたの(するの)?」
自分を取り巻く人を納得させられる言い訳(購入動機)が必要です。
自分で考えられる人は少ないので、取り巻く人別の提示があると、嬉しいものです。

「へぇ~、それいいね」
そう言ってもらえると、人は嬉しくなる生き物だと思います。

追伸:
この考え方、実は採用にも応用できます。
また改めて『仲間の集め方(採用の考え方)』のカテゴリーでお伝えしようと思います。

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