「武士道? なんですかそれ? 先生、いつの時代の人ですか」
僕、実はとある大学で講座を持っていまして。
何の講座かと聞かれることもあるのですが、説明が難しくて。
とにかく、学生に対し、“社会に出る前の心構え”的な話をする講座です。
僕が、変な講座を受け持っているのには理由があります。
「ホント、今の若い子って非常識ですよね。なんでこんな奴を採ったんですか!!」
企業人事、特に採用の仕事をやっていると、
ほとんど現場からのクレームに追われます。
クレームのほとんどは、「なんでこんな奴採ったのか?」というものです。
“新入社員や若い社員の考え、立ち居振る舞いは、社会的に非常識だ!”というものです。
確かに非常識なのか漏れませんが、僕は敢えて“無常識だ”と思っていたりして。
“知ってるのに、できるのに、やらない”。これは確かに非常識だと思います。
ただ、新入社員、若い社員は知らないんです。知らないからできない。
非常識なんじゃなくて無常識なんです。
“常識が無い”。そう、知らないだけ。
だから(知らないなら)教えてあげればいい。
社会に出る前に教えてあげればいい。
そんな思いもあって、変な講座をやっています。
そんな講座をやらせてくれる大学も変わってますが、
単位ももらえないのに参加してくる学生も変わっていると思います。
「武士道? なんですかそれ? 先生、いつの時代の人ですか」
講座に参加している学生に言われます。
なかば、呆れ顔で。
講座では相変わらず変な話ばかりです。
ある時、“罪の意識・恥の意識”という話をしました。
メインテーマではなく、雑談めいた話として。
「欧米は罪の文化、日本は恥の文化」
そんな話をしていました。
「罪とは人間の生存に関わる文明的意識」
「恥とは人間の存在に関わる文化的情感」
ある本に書いてあったことの受け売りですが、偉そうに話していました。
「日本では、恥の意識の無い人は野暮で無礼と思われてたんだよ」
これまた受け売りを偉そうに言っていると救いようがないですが……。
でも、単なる受け売りでもなかったりします。
僕の父は寡黙な人でした。
(過去形で言ってますがもちろん生きてます)
工業高校を出て、2年とたたず独立して、建設業を営んでいます。
いわゆる中小・零細企業です。
そんな父は、勉強にも進路にもあまり多くを語りませんでした。
ただ、子供のころからよく言われたのは、
「みっともないことをするな」
「恥ずかしいことをするな」
という言葉です。
何がみっともないことなのか。
何が恥ずかしいことなのか。
子供のころは全然わかりませんでした。
ただ、なんとなく“ひがむ”“ねたむ”“うぬぼれる”。
そんな感じのことが父にとっては“みっともない”“恥ずかしい”ことなんだと。
ちょっとは感じてはいました。
僕が社会人になり、新人で入社した会社である人に出会いました。
その会社を創業し、その会社のトップの人でした。
新人研修でその人がいろんなことを言っていましたが、
父と同じようなことを言っていたことに、気がつきました。
“人の足を引っ張ってはいけない”
“批判や悪口は言ってはいけない”
“ねたんだり、ひがんだりしてはいけない”
こうしたことは、みっともないことであり、恥ずかしいことなんだと。
社会にはルールが必要です。
円滑な社会運営のためには必要なものです。
社会のルールを犯した人は罪に問われ、罰を受けることになります。
組織運営にもルールが必要です。
円滑な組織運営のためには必要なものです。
組織のルールを犯した人は、何らかのペナルティを課すことになるでしょう。
しかし、あまりにもルールが多い会社は窮屈です。
ペナルティを課される社員が多い会社は、組織がギクシャクします。
「それは会社のルールに反するよ、そんなのダメだよ」
言う人も気分が悪いです。
「これってルールには反してないでしょ。ちょっとグレーだけど」
ルールがあると、ルールを守ることに意識が働き、
ルールがあると、ルールにはないからやってもいいと意識も働きます。
ルールにないことをやって問題が起きると、またルールが増えます。
何が言いたいかと言えば、ちょっと違和感がありませんか?ということです。
“罪=ルール違反”という考え方での組織運営は、ちょっと苦しくありませんか、と。
とはいえ、会社によって考え方がさまざまです。
ルールに拠らない判断軸。
そのひとつが“恥”という概念だと思っていまして。
社会に出る前の若い子たちに、
「これはみっともないことだよ」
「これは恥ずかしいことだよ」
と教える大人がいてもいいんじゃないかと思っていまして。
「ふ~ん。そうなんですか」という学生もいます。
「へぇ~。そうなんですね」という学生もいます。
“みっともないことはやらないほうがいいかも”
“恥ずかしいことはやらないほうがいいかも”
そういう子が増えたらいいな。
そういう子が増えるように。
変な講座は続いていきます。