「だいたい、新人に花見の幹事をやらせるなんて、昭和ですよ、昭和!」
「そっかぁ。それは大変だったねぇ」
「来年からは新人に幹事をやらせないように、平間さんからも社長に言ってやってくださいよ!」
「う~ん、そうだなぁ……」
彼の怒りを聞き流し、ひとまず話を受け止めることだけに専念することにしました。
彼はお付き合い先の新入社員。
久しぶりに彼の姿を見かけて、“最近どう?”と話しかけました。
6月になっても4月の花見の怒りが収まらないようで。
ひとまず話を受け止めることだけに専念しようと努めました。
「でも、幹事だったんでしょ? 場所取りだけじゃなく」
「はい、“幹事よろしくって”って言われて場所の手配から何から」
「よかったじゃない」
「何がですか? 何が良いんですか?」
「え、僕が知ってる会社だと、新人には場所取りだけさせて、あとは総務がやっちゃうパターンが少なくないよ」
「どうせだったら、場所取りだけの方がよかったです」
「なんで?」
「だって、まだその方がラクじゃないですか」
「まぁね」
「買い出しだの、会費の徴収だの。幹事ってめんどくさいですよ」
「集合時間に遅れてくる人はいるわ、ひどい人になるとドタキャンするし」
「そうなんです。仕事が長引いたとか、クレームが入ったとか」
「来た人は来た人で、会費の支払いに1万円札出す奴もいるし」
「そう、そうなんです! 平間さん、よくわかりますね」
「そりゃ、何度も幹事やってるからね」
「え? お花見のですか?」
「いやいや、そんな何度もお花見の幹事はやらないよ。飲み会の。飲み会の幹事ね」
「え~、そうなんですね~」
「なにそのリアクション。意外?」
「ちょっと意外でした……」
怒りの感情も、話を聞くことに専念していると、だんだん収まってくるようです。
僕は、ちょっとずつ話をしはじめました。
「幹事やってるとさ、普段は見えない人間性が見えるよね」
「人間性、ですか?」
「うん。例えば会費。なんで1万円札出すんだろうね。前もって言ってるのに」
「そうなんです。会費4,000円ってずいぶん前から告知してました」
「フツーは崩してくるでしょ」
「そうなんです。おつりが無かったので、ちょっと待っていただきました」
「だよね。だから、一度でも幹事をやったことがある人は、必ず崩してくる」
「そうなんですか?」
「だって、自分も“なんでここで1万円札出すかな”ってイラっとした経験があるから」
「そうなんだ……」
「××さんも、今回経験したから、次回は崩していこうって思ったでしょ?」
「えぇ、“ここで1万円札出すんや”って、嫌な奴だと思われたくないですから」
「だよね~。飲み会とかって、ホント人間性出るよね……」
だんだん意気投合してきたところで、徐々に本題へ。
「幹事、やってよかったじゃない」
「え、どういうことですか?」
「ウチの会社の人のいろんな側面が見られたんだから」
「まぁ、そうですけど」
「会費を崩さずに持ってくる人、遅刻する人、遅刻しても悪びれない人、一発芸を強要する人」
「まぁ、確かにいろいろありました」
「花見でも飲み会でも、幹事に対する態度って人間性や出やすい。だから幹事をやると、人間性がよくわかる」
「これも“経験”ってことですか?」
「どう思う?」
「まぁ、そうですね……。この人みたいにはなりたくないな、ってのは思いました」
「来年の花見、来年の新人さんにはさせない?」
「う~ん……。毎年じゃなく、1回だけですしね……」
「フォローしてあげたらいいんじゃないの?」
「そうですね」
「会費は?」
「もちろん崩して持って行きます」
「さすがっ!」
「いや、フツーです。崩さない人がフツーじゃないだけです」
「それが分かっただけでも良かったじゃない」
何事も経験、だと思います。
経験しないとわからないことも多いかと思います。
“相手の立場に立って”
“相手の気持ちを考えて”
上司や先輩が新人や若手に指導する際、よく使われる言葉です。
しかし、言葉で伝えても伝わらないこともあります。
“相手の立場”や“相手の気持ち”は、言葉で言われてもイメージできません。
イメージができなければ、当然行動も伴わないわけです。
そしてまた、
“相手の立場に立って行動しなよ”
“相手の気持ちを考えて行動しなさい”
そんな風に指導してしまうわけです。
先ほどのお花見。
場所取りだけやらせるぐらいなら、幹事をやらせるのがいいと思います。
とはいえ、最近は新人が入社する前に桜が散ってしまいます。
そうなると、幹事の経験は2年目になる頃ですね。
そうすると、飲み会や懇親会の幹事でしょうか。
入社してすぐでも3か月目でも。
なるべく早い方がいいですね。
なるべく早い段階で幹事をやらせると、わかることがあります。
学生時代に“幹事”の経験があるか。
入社してすぐに幹事を任せたときに、段取りよくこなす新人もいれば、まごつく新人も。
僕の知人の会社では、採用面接時に「飲み会の幹事をやったことがありますか?」と質問することにしているようです。
とはいえ、このご時世、学生時代に飲み会幹事の経験がある人は少ないかもしれません。
なるべく早い段階で“幹事”を経験させてみてはいかがでしょう?
社員育成のための、ひとつのツールとして効果的だと思います。
もちろん、実施後のフォローも忘れずに。
幹事を任せる目的・意図を伝えてください。
目的・意図を本人に先に伝えておくと、フォロー時に良いことがあります。
それは、幹事が先輩社員の素行や立ち居振る舞いを教えてくれること。
次の機会には、誰に、何を経験させないといけないかが見えてきます。
スキルや能力以上に大事なこと。
人間性を高めるための教育、育成に時間をかけたいものです。