配属後にやるべき新人への2つの儀式

あと半月もすれば入社式ですね。
(このコラムを書いているのは3月15日)

学生はこれから卒業式を迎え、4月になれば入社式を迎えます。
ハレの日が続きますね。

受け入れる企業にとっては、忙しい日々だと思います。
僕も経験がありますが、50人近い新人を受け入れるとなると、毎年のルーティンも業務量がハンパないですが、ちょこちょことした事件も起こりますね。

「引っ越し業者の手配が間に合いません!」
(とりあえず上京しておいで。体だけあれば入社式を迎えられるから)
「カーテンが届くのが4月過ぎちゃうみたいなんです……」
(そりゃ困ったね。とりあえず窓を段ボールでふさいでおこうか)
「単位が足りなくて卒業できません!」
(あちゃ~今年も? そこは自分で何とかしておいでー)

なんやかんやと事件があっても、全員が欠けることなく入社式を迎えられれば、人事としてはひと安心。辞令を渡して、お昼の準備をして、研修が始まって……。

お忙しい日々が続くと思いますが、人事のみなさま。お身体ご自愛ください。

そんな僕にももちろん、新人時代がありました。

大学の卒業式を終え、大学近くの下宿(って言い方は今はしないんですかね)から会社の寮に引っ越して、4月の入社式を迎えました。
入社式を終えるとそのまま研修に突入。研修期間は1週間ほどでした。

研修を終えると、配属。
それまで1週間は、出社後そのまま研修会場に向かっていましたが、配属初日は自分のデスクに向かうことになります。

研修で教わったとおり、始業30分前には出社し、自分のデスクに座ります。
当時は固定席が当たり前。
自分のデスクがあるわけです。
「自分の島(チーム)のデスクは拭いておくものですよ」
これも研修で教わっていたので、給湯室に行って雑巾を絞り。
自分のデスクを一生懸命キレイに拭いていたような気がします。

僕の同期は20人でした。
10人が東京配属、10人が大阪配属。
僕は東京配属でしたが、東京のオフィスはフロアが分かれており、新人が配属されたのは、3階、4階、5階のフロア。1フロアあたり3~4人の計算ですね。

僕が自分のデスクを拭いていると、ちょっと遅れて同期が出社してきました。
彼のデスクは、僕の隣の島でした。
彼がデスクに近づいていくと、「ナニコレ?」とひとこと。
彼の机の上には、7~8冊の本と、手紙が置いてありました。

「ナニソレ?」
僕も思わず聞いてみると、開けて読んでいた手紙を読みながら彼はこう言いました。
「推薦図書だって」
「推薦図書?」
僕が聞き返すと、手紙を読み進めていた彼が続けてこう言いました。
「“入社おめでとう”だって。ウチのチームのリーダーからみたい」
「へぇ~、なんでまたリーダーが」
僕の質問を聞き終える前に彼は
「今日はチームメンバーが全員出張で会社にいないから、“ごめん”って。デスクの本は全部くれるみたい。仕事に役立つ本だから読んでくださいって」
「え~、いいなぁ~。俺んとこ、何にもないよ」

あとでわかったことですが、各フロアの新人のデスクには、手紙が置いてあったり、本が置いてあったり、手紙と本が置いてあったりしたそうです。
もちろん、僕のようにデスクの上には何もない新人も。
“歓迎されてないのかな?”
配属初日の朝。僕はそんなことを思ってました。

始業時間まであと5分ぐらいとなったあたりで、先輩方が続々と出社してきました。
とはいえ、日々の出張が当たり前の会社だったので、フロアの3分の1ぐらいしか席が埋まらず。
「それでも今日は多い方だよ」
同じチームの先輩が教えてくれました。

朝礼が終わり、自分のデスクに戻ると、席は全部埋まっていました。
僕が配属されたチームは、メンバー全員が出社していました。
「よろしくお願いします」
あいさつもそこそこに、メンバー全員、仕事にとりかかりました。

「さ、そろそろ行こうか」
突然、リーダーのIさんがみんなに声をかけました。
時間は11時20分を過ぎたところ。
“行くって、どこに?”
そう思いながらついていくと、オフィスの外へ。
先輩がタクシーを止めると、全員で乗り込み。
5人が乗ったタクシーは、どこかへ走り出しました。

着いたのは、白金にあるおしゃれなレストラン。
(有名すぎるレストランでしたが、当時は知りませんでした)
しばらくすると豪華なランチプレートが運ばれてきました。
早めのランチが始まりました。
「出身は?」
「大学は?」
「なんでウチの会社を選んだの?」
「将来、何やりたいの?」
メンバーからどんどん質問が飛んできます。
豪華なランチと質問に緊張している僕でした。
でもメンバーはニコニコしながら聞いてくれていました。

ランチを終え、コーヒーを飲んで、会社に戻ったのは13時半を過ぎ。
(もちろん、帰りもタクシーです)
「ごちそうさまでした」
僕のお礼へのリアクションは薄く、メンバー全員、仕事にとりかかりました。

「さ、定時だ。帰ろうか」
また突然、リーダーのIさんがみんなに声をかけました。
時間は終業時間を過ぎたところ。

メンバーは各々に立ち上がり、「おつかれさまでしたー」と近くの島にも聞こえるようにあいさつをし、帰ってしまいました……。

翌朝。
僕が自分のデスクを拭いていると、ちょっと遅れて同期が出社してきました。
隣の島の彼でした。
「結局、平間ちゃんが一番歓迎されてるってことだよ」
「そう? Tちゃんも歓迎されてるじゃん」
「俺は手紙と本だよ。平間ちゃんは白金でランチ。しかもチーム全員出社してたし」
「あ~、そうだよね~。全員出社してたのにはビックリした」

実は内心、僕もそう思っていました。
全員が出社していて、白金でランチして、定時に帰って。

メンバーが誰もいないチームもあったり、コンビニで弁当を買ってお昼を済ました同期もいたり、配属初日から9時まで残業した同期もいたりする中で、僕はずいぶん恵まれた配属初日を過ごしたんだなぁと思っていました。
“この会社入ってよかった~”
心の底から思っていました。

始業時間まであと5分ぐらいとなったあたりで、先輩方が続々と出社してきました。
今日もやはり、フロアの3分の1ぐらいしか席が埋まっていませんでした。
それだけじゃありません。
僕のチーム、誰も来ていません。
配属2日目。僕のチームは僕だけの出社でした。

お昼は、隣の島のメンバーと食べに行きました。
手紙と本をもらった同期と、出社していた彼の先輩の3人で。

夕方になって、僕のチームの先輩が出社してきました。
出張先に直行していたので、出社ではなく帰社でした。
「昨日はごちそうさまでした」
「いいよいいよ。お礼はIさん(リーダー)に言って」
「はい。ありがとうございます」

そんな会話から始まり、先輩はいろいろなことを教えてくれました。
どんな仕事をしているか。
どんなお客様とつきあっているか。
今動いている案件はどのようなものか。
新人がやるべきことは何か。
これからやってほしいプロジェクトの調査について等々。

仕事の話だけではなく、世間話も。
その先輩は、中途入社の方でした。
入社してまだ半年ほどの方でした。
「半年しか違わないから同期みたいな感じでいいよ」
そう優しくおっしゃってくれました。
“先輩、優しくてよかった~”
良い会社に入れたのかも、と内心喜んでいました。

「そういえば、今日はみなさんいらっしゃらないんですね」
昨日は全員出社だったので、何気なく聞いてみると、先輩の優しい顔つきがちょっと鋭くなり、僕にこう言い出しました。
「平間さん、昨日は平間さんの配属日だからみんな出社したんだよ。リーダーをはじめ、みんなスケジュールを調整したんだ。忙しいのにね」
僕が恐縮していると、先輩は続けて、
「わかってると思うけど、ウチの仕事のスタイルは月次指導とプロジェクトがあるでしょ? 月次指導の場合は、1回(1か月)お邪魔して20万円いただくんだよ」
僕は“それは知ってるよ”という顔をすると、先輩はさらに続けて
「ってことは、昨日出社せずに全員が指導先にお邪魔してたら、単純計算で100万円の売上になってたわけだよ。リーダーの指導料はもっと高い。“配属初日に誰もいなかったら、新人の子ちょっと凹むよね”とリーダーが言って、100万円の売上より、全員が出社する方を選んだんだよ」

僕は絶句してしまいました……。

と同時に、スイッチが入ったのはいうまでもありません。
その日は、先輩の手伝いをずいぶん遅い時間までやっていたと思います。

あと半月もすれば入社式ですね。

入社式では会社から「入社おめでとう」を言われるでしょう。
配属日には配属先から「入社おめでとう」を言われるでしょう。
「入社おめでとう」を言われる新入社員はテンションが上がるでしょう。
ですから、どうかたくさんの「おめでとう」を言ってあげてください。
手紙でも本でもランチでも、全員で“歓迎しています”を表現してあげてください。
“この会社入ってよかった~”
心の底から思ってくれるはずです。

できれば、現実的な話もしてあげて欲しいと思います。
新卒社員が戦力になるまで、会社や仲間が待ってくれること。
新卒社員が戦力になるまで、時間もお金もかけていること。
なかなか言いにくい話かもしれません。
(僕が話す新人研修では、必ず言うようにしています)
個別にこっそり、告白するかのように言ってあげてください。
“早く一人前にならなきゃいけない”
スイッチを入れてくれるはずです。

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