「そこにコースターがありますね。“水の入ったコップを乗せる”以外の用途を7つお答えください」
僕の目の前には、新卒採用の選考に来ている学生が6人。
学生が座っているテーブルの上には、紙コップに水やジュース、お茶などがそれぞれ置かれています。
「誰からでもいいですよ。思いついたら、手を挙げてからおっしゃってください」
選考で緊張しないよう30分前に来社いただき、控室で雑談してもらうようにしていました。
ドリンクは、控室で好きなものを選び、飲みかけをそのまま持ってきてもらっていました。
各自の座る席にはコースターが置かれ、そこにコップを置いてもらっていました。
「いいですか? 短いですが、線を引く定規の代わりに仕えると思います」
「定規、いいですね。ありがとうございます」
正方形で、角が丸みを帯びたコースターを、定規としての用途に例えてくれた学生がいました。
「はい。しおりの代わりになると思います。本を読んでいる時に使う……」
「確かに。しおり、いいですね。ありがとうございます」
約8センチ四方のコースターを、本に挟むしおりとしての用途に例えてくれた学生がいました。
「他にありますか? 今言っていただいた用途以外に……」
数十秒の沈黙が続きました。
「はい……。付箋というか、メモに使えると思います。メッセージを書いて渡す……」
定規としての用途を答えてくれた学生が、再度発言してくれました。
「お、いいですね。ひねり出してくれましたね。ありがとうございます」
学生は、ちょっと照れたような、いやちょっと安堵した表情で僕の目を見てくれました。
「他にありますか? 何でもいいですよ」
沈黙が1分ほど続き、学生たちの表情を見ていたたまれなくなった僕は、こう告げました。
「ありがとうございます。では、この辺で終わりにしましょう」
学生たちは、ホッとしたような、戸惑ったような表情を見せています。
「考えてくれた皆さん、そして勇気を持って発言してくれ方に感謝します」
そして話題は次に移っていきました……。
“変な質問だな”と思われたかもしれません。
“いじわるな質問だな”と思われたかもしれません。
もう20年近く前になりますが、僕が企業の採用担当者だった頃、この質問は定番でした。
コースター、コップ、サインペン、ハンカチ、クリアファイルなどなど。
手元にあるもの、目についたものをお題にして、変な質問、意地悪な質問をしていました。
(常に聞いていたわけではありません。たま~に聞いていた感じです)
でも、これには理由がありまして。
この質問には、意図がありまして。
“即答力”があるか。それを判断していました。
実は、僕も同じような質問をされたことがあるんです。
それは、僕が学生の時、新卒採用面接に臨んだ時のこと。
僕がとある企業の選考に参加した際、向かいに座っている面接官がこう言いました。
「こうもり傘は雨をしのぐためのものですね。では、雨をしのぐ以外の用途を7つ、答えてください」
(今は、“こうもり傘”なんて言葉は使いませんね。今でいう“折りたたみ傘”のことです)
僕も含めて、選考に臨んでいる学生は5人いました。
突然の質問に、戸惑うどころか皆、固まっていたのを覚えています。
(“何言ってんだこの面接官”と思っていたのも覚えています)
結局、緊張もあってか、僕はもちろん、誰も答えなかったと思います。
にもかかわらず、僕は次の選考にも呼ばれていました。
(“この前の選考は何だったんだろう”と思いながらも、結局、内定をもらい入社しました)
答えは入社してから教えてもらいました。
「コンサルタントという商売は、お客さんから“どうしたらいいと思いますか?”と聞かれて十秒黙ってたら、“こいつは使えないな”と思われるよ」
入社した会社のトップが教えてくれました。
「何でもいいから答えること。突拍子もないことでもいい。アイデアを出すことが大事」
新入社員の時にその教えを得、自分が面接官の立場になってから、実践してみた、ということです。
具体的な統計を取ったわけではありませんが、「用途を7つ」の質問に複数の回答をくれた仲間は、入社してから“機転が利く”“想像力(創造力)がある”“反応(リアクション)が早い”という評価が多かったように思います。
“なんでこんな子採ったの?”というクレームは、彼ら彼女らには向けられなかったように思います。
さて、今日は採用基準のお話。
御社でも採用面接の際には、採用基準を設けていると思います。
ざっくりとした基準かもしれませんし、詳細な基準を設けているかもしれません。
今日は、“こういう採用基準で合否判断した方がいいですよ”というお話ではなく、相変わらずの“考え方”のお話です。
これまた具体的な統計を取ったわけではありませんが、“言われたことを言われたとおりに勉強してきたようなタイプ”は、「用途を7つ」の質問になかなか答えられなかったように思います。
最近で言えば、僕が受け持っている講座の受講生(大学1~3年生)に同じような質問をすることがあるのですが、なかなか答えが出てきません。ほとんどの学生から答えが返ってきません。
たくさん勉強してきていますから、(僕なんかより)たくさんの知識を持ってるはずなのに。
今の学生はデジタルネイティブですから、(僕なんかより)たくさんの情報を持ってるはずなのに。
“変な(意地悪な)質問しちゃったかな~”と、かえって申し訳なく思ってしまう時もあります。
「でも平間さん。折り畳み傘の用途って、“雨に濡れないためのもの”ですよね?」
「でも先生、クリアファイルの用途って、“書類をはさむ(保管する)ためのもの”ですよね?」
「コースターって、“コップの水滴でテーブルが濡れないようにするためのもの”ですよね?」
学生たちの反論(正論)はもっともなのですが、“この製品(商品)は、こういう機能があって、こういう用途に使うもの”という一義的な定義に縛られちゃってない? と思うわけです。
講義に出席している学生には就活中の子もいて、時折就活相談に乗ることもあります。
ガチの就活指導という感じではなく、自然体で話せるような話題を振るだけですが。
私:「へぇ~。趣味・特技がキャンプかぁ、いいね」
A:「サークルやプライベートで夏は毎週行ってたりしますからね」
私:「ホント? 僕は年に1回ぐらいだからな~。去年なんか着火剤を忘れちゃって、炭をおこすの大変だったんだよね~」
A:「平間さん、それは致命的なミスですよ。着火剤はマストですよ」
私:「ちなみにさぁ、××くんがもしも着火剤忘れたらどうするの?」
A:「そうですね。近くのキャンパー(キャンプする人)に譲ってもらいます」
私:「そうなんだ~。そうだよね~」
私:「お、得意なことは“料理”。いいね」
B:「一人暮らしなんですが、節約のために自炊を始めたらはまっちゃったんです」
私:「え? じゃ、毎日やってるの? すごいな~。僕なんか月に数回しか料理しないんだけど、この前なんか豆腐ステーキ作ろうと思ったら小麦粉を切らしちゃってて、代わりに片栗粉使っちゃったんだよね……」
B:「平間さん、それはダメですよ。ちゃんとレシピ通りにつくらないと」
私:「ちなみにさぁ、××さんはレシピに載ってる材料が家(冷蔵庫)になかったらどうするの?」
B:「もちろん近くのスーパーに買いに行きますよ」
私:「そうなんだ~。そうだよね~」
着火剤を忘れたら、着火剤を譲ってもらう。
正しいとは思うんですが、着火剤がなくとも炭はおこせると思うんです。
レシピの載ってる材料が家になかったら、スーパーに買いに行く。
正しいとは思うんですが、家にあるもので代用してもいいと思うんです。
着火剤がなければ、枯れ葉と小枝を集めてきて火種にする。
うちわでガンガン仰ぐとそのうち火が出ます。
クッションマットを膨らますためのブロワーなら速攻ですね。
あの風量なら、簡単に火が付きます。
ちなみに、僕は以前、新聞紙を火種にしたことがあるのですが、灰まみれになってしまい……。
(もちろん炭はおこせましたが……)
レシピに載ってる材料がなければ、家にあるもので代用する。
木綿がなければ、絹ごし豆腐だっていい。
サラダ油が切れてたら、ごま油を使ってもいい。
そんなに違和感なかったりするものです。
ちなみに、僕が作った豆腐ステーキ、レシピには木綿豆腐とあったのですが冷蔵庫になく、代わりに絹ごし豆腐を使って片栗粉を……。
(全然大丈夫でしたよ。家族に「おいしい」って言われましたもん)
そんなんでいいと思うんですよね。
もっと自由に。
“これでもいいんじゃない?”
“これでもよくない?”
そんな発想でいいと思うんです。
逆に、そういう発想がないと、イレギュラー対応できないんじゃないかと思うんです。
与件が整理されていないと決められない、進めない。
あまり感心できるものではありませんね。
材料がすべて揃ってないと着手できない、進められない。
不足があってもどう補うかを考えたいですね。
「そこにコースターがありますね。“水の入ったコップを乗せる”以外の用途を7つお答えください」
さすがにこの質問をするのは勇気がいるかとは思います。
体験やエピソードを深堀しながら、
「もし、××(材料)がなかったらどうするの?」
「仮に、××(要素)が欠けていたらどうするの?」
と聞いてみてもいいかもしれません。
帰ってきた答えから、
“機転が利くな”
“想像力(創造力)があるな”
“応用力があるな”
と思えたら、僕は○にすると思います。
あなたはどう思われますか?