「一次面接で志望動機を聞くから逃げられるんですよ」

「面接に来る学生の志望動機が、どうも弱くて……。マル(合格)が出せないんですよね……」
「そうですか……。でも××さんの会社って、いつからそんなに偉くなったんですか?」

「何いってるんですか。それはちょっと失礼じゃないですか?」
「あ、スイマセン……。でもその面接って、まだ一次面接ですよね? 一次面接で志望動機を聞くって、ずいぶん傲慢だなって思って……」

「傲慢ってなんですか! 傲慢って……(怒)」
「いや、いやスイマセン……。だって……」

僕がお付き合いをお断りする企業の大半は、こんな会話から始まることが多いんです……。
その後の話を受けて、僕の言わんとすることをご理解いただける企業とは笑顔でお付き合いが始まりますが、なかなかご理解いただけない場合も少なくないんです……。

さて。
採用活動、例えば新卒採用の一次面接において、学生に『志望動機』を聞いている企業って、驚くほど多いんです。新卒採用だけでなく、もちろんキャリア採用の一次面接でも。

「一次面接でいきなり“志望動機”を聞かれたので、ちょっとテンションが下がりました(で、結局途中で選考を辞退しました)」
こう僕に本音を打ち明ける人は、実は珍しくもなんともありません。

応募者の立場からしたら、ちょっと興味があって、そして勇気を持って応募したのに……。
企業の立場からしたら、せっかく応募してくれたのに……。

どちらにとっても、“もったいない”ですね……。

さてさて。
採用担当者に方に、ぜひ知っていただきたいことがあります。
企業トップの方にも、ぜひ知っていただきたいことがあります。

それは……。
企業の求人にエントリー(応募)することを決めた人って、
「その会社に“ちょっと興味を持った”からエントリー(応募)してみた」
という心理状態でしかないんです。

説明会に参加するのも。(説明会を経ずに)選考に応募するのも。
“ちょっとだけ興味がある。
だからどんな感じがみてみたい”
そんな感じなんです。実は。

なので、“ちょっとだけ興味がある”心理の人に、「なぜウチの会社を志望したんですか?」って聞くのは酷なことなんです。
「ちょっとだけ興味があったので応募しました」
そんなことを言えるはずがありません。
だからといって、“ちょっと興味があるだけ”の人が、企業の採用担当者の心に響くような志望動機を語れるはずもなく……。
どんな会社にも通用するような志望動機になってしまうのは仕方がないように思います。

“それって他の会社にも言えることですよね……”
採用担当者からは、ついついそんな言葉が出てしまう。
応募者にとっては、その言葉でテンションが下がってしまう。
(結果、応募者は選考を辞退してしまう……)

どちらにとっても、“もったいない”ですね……。

応募者としては、
・“ちょっと興味があって”応募してみた
・説明会や面接の場で、その会社をもっと理解したい
・“興味”が“働きたい”に変われば、“応募してみてよかった”と思う
・“応募してみてよかった”だけでなく“ここで働きたい”と思いはじめた
・“なぜここで働きたいか”を真剣に考えてみよう
・自分の想いを届けよう。そして内定を勝ち取ろう
というココロの段階があるはずなんです。

応募者のココロとしては、
“ちょっと興味があるから、もっと理解したい”
と思っている段階なのに、
企業の採用担当者としては、
“なぜウチの会社に入りたいか知りたい、私たちの心に響くような志望動機を聞かせてほしい”
と思ってしまうんですね(しかも実際にそれを聞いてしまう)。

応募者と採用担当者のココロのステージの乖離。
実は採用実務において、この乖離が圧倒的なチャンスロスにつながっている。

本来、採用したい(採用するべき)人材と巡りあっているのに、応募者はまだ入社意欲が高まっておらず、かつそのタイミングで企業は志望動機を聞いてしまう。
これは本当にもったいないと思うんです。

じゃ、採用担当者はどうするべきか?
説明会では何を伝えるべきか?
一次面接では何を聞くべきか?
ここまで読んでいただけているということはお判りかと思いますが、“応募者にもっともっと会社のことを理解してもらう。それ以上に会社に”ここで働きたい“と思ってもらう。そのための情報を届け、そのための熱意を届けるのが大切なんです。

相手のことを知るための質問は大切なことです。
何がしたいのか、何が得たいのか。
彼、彼女のしたいこと、得たいことが会社で叶えられそうなのであれば、それはしっかり伝える必要があります。どうすればできるのか、どうすれば得られるのか。そのためにやるべきことは何なのか。
嘘をついてもダメです。難しいことや厳しい現状があっても、それは本音で伝えるべきです(解る人であれば、会社が建前でも嘘でもなく、本音で伝えてくれていること自体に敬意を示します)。

説明会や一次面接でこうしたことを行っていれば、“この会社で働きたい”と思う人が増えるはずです。そして、“なぜこの会社で働きたいか”を真剣に考え始めるはずです。

時間が進むにつれ(選考が進むにつれ)、“なぜこの会社で働きたいか”が言語化できていきます。言語化が難しくても、感情・意欲は高まっているはずです。

一次面接では志望動機を聞くべきではありません。
しかし、その後の役員面接や最終面接では志望動機は聞いてもいいと思います。
言語化できている“働きたい想い”を応募者は伝えたいでしょう。
仮に言語化が上手にできていなくとも、感情・意欲は伝わるはずです。

それをトップには受け止めていただきたいですし、受け止めるべきだと思います。
そして、判断するべきです。自社に必要な人材かそうでないかを。
なお、役員面接・最終面接になっても志望動機を聞かないのもひとつの方法です。
優秀な応募者は他社も欲しがるはずですから、役員面接・最終面接でも動機づけに徹することだって有効な手段だと考えます。

大事なことなのでもう一度言いますが、一次面接で志望動機を聞くべきではありません。
“ちょっと興味があって”応募してみた相手に対し、動機づけすることが目的です。
会社を理解してもらい、応募者のやりたいこと得たいことが自社で叶うならば、しっかり伝える。
嘘も誇張も要りません。正直に伝えること。
これが大切です。
どうぞご理解ください。

最後に余談を……。
ずいぶんと長いことお付き合いしている会社にこの話をしたところ、
「よし、じゃぁ一次面接でも、役員・最終面接でも志望動機は聞かない!」
と僕に宣言されたトップの方がいらっしゃいました。

それを聞いて、僕はこう言いました。

「そうですか。いいですね。ただ、内定後には、志望動機を三回聞いてくださいね」

それを聞いたトップは、怪訝な顔でこう返してきました。

「ん? 平間さん何言ってんの? 大丈夫?」

それから、こんな会話が続いていきました……。
「え、大丈夫って、何がですか?」
「もう内定出してんのに、それから志望動機聞いてどうすんの」
「あ、ゴメンナサイ。言葉足らずでした。ブロック対策です」
「ブロック対策?」
「はい。本人は入社する気満々でも、周りに反対されるかもしれないじゃないですか」
「反対? もしかして親御さんとか?」
「鋭いですね。そう、そうです。“××に反対されたら何て言う”って聞くんです」
「ほぉ」
「親御さんに反対されたら? “なんでそんな会社に行くの?”って聞かれたらどう答えるの? って敢えて聞くんですよ」
「“そんな会社”なんていわなくてもいいじゃない。確かにウチは上場もしてないし、知名度もないけどさ」
「そう、だからなんです。“××(会社名)に行くこと決めたから”って本人が親御さんに伝えたとしても、誰もが知る会社名じゃなかったら、親御さんは親御さんで心配するじゃないですか」
「まぁ。ねぇ……」
「だから“親御さんに対する志望動機を言ってみて”って聞くんです。本人は納得してても、親御さんにはそのロジックが通用しないこともある。“こういう風な言い方の方が親御さん納得するんじゃないの?”ってアドバイスもしたりして」
「そうかぁ、それでブロック対策」
「はい。ブロック(反対)される可能性があるのは、親御さんだけに限りません。ゼミや研究室の教授に反対される場合もあるし、友達に反対される場合もある」
「それで三回か……」
「そうです。“親御さんに反対されたら?”“教授に反対されたりしない? 反対されたらどう反論するの?”“友達は何て言うと思う? 友達になんでそこ(その会社)なの? って言われたら何て言うの?”とブロック対象を3パターンぐらい想定して聞いてみるんです。そして“相手が納得できるトークを一緒に考えよっか”と寄り添ってあげれば、より入社意欲も高まるでしょ?」
「内定後に志望動機を三度聞く、ね。選考中に志望動機を聞かないことより全然大事な話じゃないですか……」

「あ、スイマセン。伝えてたつもりでしたが……」

内定後のケアも、採用活動ではとても大事なプロセスですね。

これも大事なことなので、最後の最後にもう一度。

選考中に志望動機は聞くべからず。
ただし、内定後には三度聞くべし。

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